板橋の印刷製本の魅力は何ですか?

萬上 誰もが言うのは産業の集積度ですよね。板橋は産業構造的に大手印刷会社さんを頂点として裾野の広い三角形なんですよ。なので部分受けとかも含めて何かに特化している会社が当然多く集まっている。

齋藤 紙の加工だけ見ても色んな技術を持った会社が集まってるじゃないですか。お互い知ってるかどうかは別として全国から発注がきてると思いますよ。逆に僕らに求められるのは隙間産業的なちょっと特殊な加工の絵本だったりなので、他にはない加工だったり、印刷だったりができる会社は板橋にはほぼ集まっているんじゃないかなと思うんですよね。

萬上 板橋の魅力として絵本は良いんじゃないですかね。ご縁のある出版社のベテラン編集者さんが「板橋の良さは絵本に産業のバッグボーンを持っていること」と仰っていて、全国でも他に絵本のまちを掲げる自治体はあると思うんですけど、板橋は絵本に産業としてのノウハウや知見を持った人材が集積している強みはあると思います。

齋藤 そうですね。確かに他でも「絵本でまちおこし」みたいなのが沢山あるんですけど、そこに「実際に絵本を作れる」というのが入ってるのは板橋だけなので、そこは板橋の魅力として大きいかもしれないです。

 

絵本のまち板橋としての強みは何ですか?

齋藤 区立美術館でボローニャ絵本の原画展を毎年やってるというのは結構大きいと思います。地方から絵本好きが毎年必ず見に来るぐらいなんで。

萬上 板橋には本当に立派な区立美術館があって、行くと観覧者で若い方も多くて、期待というか需要というか、ポテンシャルを感じるところはありますね。板橋がボローニャと友好都市協定があるというだけじゃなくて、板橋自体が絵本のまちとして世界中から作家や作品を呼び込めるようなイベントができれば最高かなと思います。ボローニャの良い所は、イラストコンクールなんかは若手イラストレーターの登竜門と言われていて、5枚1組の絵があれば年齢とか職業とか関係ないんですよ。間口を広く取っているっていうのがあって、それは板橋でやろうと思えば恐らくできることだと思うんですよね。

 

産業のバックボーンを持つ

 

齋藤 ボローニャの絵本の見本市は各出版社と作家が版権を売る場としてちゃんとビジネスになってるっていうのは大きいと思います。板橋も何かしらビジネスとして絵本のまちの強みを持つことが印刷製本の魅力としても大事じゃないですかね。

絵本のまちがビジネスになるのに必要なことは何ですか?

齋藤 絵本において板橋はビジネスに必要なものが全て揃っていると思います。あとは板橋のブランドがそういう意味ではボローニャに倣っていくべきですかね。ボローニャのように何十年も続けることで認識されることってあるじゃないですか。板橋もそうなる土壌は十分にあると思うんです。

萬上 1年1年年輪のように広がっていく。作品とか作家とかの層が厚くなって歴史が自然と何も発信しなくても「ああ知ってますよ」って。時間が多少は必要ですけど。

齋藤 すごく時間も手間暇もかかるけど、なんかそういうので本当にいいものを作って売ってくっていう方が良いのかなって気がします。

萬上 板橋には絵本のまちとして新たなプロダクトをプロデュースする力が既にあると思うので、板橋ブランドとしてシンボリックなパブリッシャーがあっても良いのかなと思っています。印刷製本に関しては歴史もノウハウもコストマネージメントの仕組みみたいなものも板橋にあるので、板橋ブランドが印刷製本の上流にある編集とか取材とか撮影とかも含めてプロデュースする。

齋藤 板橋には立派な区立美術館があって、ボローニャ絵本の原画展を毎年やってるわけだから、美術館の中に出版部門を作ってもいいんじゃないかな。それで区内の事業者が美術館に集まってなんか色々とそこでやるっていうのが僕はいいんじゃないかなって気がしています。

 

ビジネスとしての絵本のまち

 

板橋の印刷製本業として今からやるべきことは何ですか?

萬上 IT業界とか元気のいいところと組むことじゃないですかね。たぶん印刷会社と製本会社が組むだけでは厳しいかなと思っています。他と組むことで化学反応とか新しい価値みたいなものが出てきたり、元々持ってる価値に私たちが気づいてアクセルを踏み始めるみたいなことはあると思いますよね。その先に我々より若い経営者がこれから出てきて、この産業で彼らの中から新しい流れみたいなものが出てくる。私たちでさえもう古い。やっぱり若い経営者に期待したいですよね。

齋藤 外に向けての発信がすごい大事。どんなにいい本だって知ってもらわないと売れないじゃないですか。だから何か変わった事例を作って世の中に出していけば、それが宣伝になると思うんですよ。今の中身を変えずに売り先を変えるってことです。なんか面白いことやっていれば必ず人は集まってくると思うんですよ。めちゃくちゃマニアックな人とか尖った人とか、全然違う業種で凄くコアにどっぷり漬かった人が入ってくるとか、それはそれで面白い。

萬上 昔は印刷会社がページのレイアウトや編集みたいなクリエイティブなことをやっていたんですけど、時の流れで受託側として生産能力を誇るような装置産業になってしまって、印刷の中身に興味を失ってしまっている部分があるのかもしれない。だからそこを取り戻しに行く必要があると思っていて、印刷製本に携わる人たちがもっと文化的である必要があったり、頭が切れる必要があるのかなって。そういう人材が出てこないと変わっていかないのはあるかもしれないですよね。

板橋の印刷製本の未来についてお聞かせください

齋藤 今ある会社がやっぱり元気なことが一番の魅力だと思います。無理して元気を作るんじゃなくて、方法はそれぞれでも仕事があって、利益が上がって、儲かって、みんなから必要とされて。やっぱり一社一社がしっかりと元気があれば人が集まるだろうし。

萬上 元気がないとサスティナブルじゃないですしね。

齋藤 一番簡単なのは各々がめちゃくちゃ頑張って、凄くエッジが立っている会社がいっぱいあれば、もうそれだけで面白いことができると思います。

萬上 お尻に火が点いてね。追い込まれないとやっぱりポテンシャルとか能力は上がってこないと思います。あとは沢山の人をインボルブしやすいのはやはり絵本だと思います。この産業はもっと開かれた形の方がいいと思っていて、もっと子どもを巻き込んだ方がいい。

齋藤 コト作りですね。

萬上 1人1人が主役として自分のバリューを届けられて、その場で化学反応が起こって付加価値が増幅して行く場所ではなくコト。

齋藤 それで盛り上がったら多分、ちょっと楽しい世界になると思う。

 

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