板橋の印刷製本の魅力は何ですか?
岩村 魅力と言えるかというのはありますけど、板橋が印刷と製本のまちっていうのは都内に関わらず全国的に「多い街だよね」と言われます。某テレビ番組で板橋が特集された時も3位が「印刷・製本関係の会社」となっていたので主要産業の一つとして認知はあると思うのですが、認知をどうブランド化していくかが今後の課題ではあります。
田中 そうですね。実際に板橋で印刷したものと、他で印刷したものが品質的に変わるってわけじゃないですからね。板橋区内に印刷製本業者が集積しているから仕事がやりやすいし、お互い社長同士も顔が見えるっていうのもあるし、そういう点で信頼が置けるのかな。岩村 ブランド化っていうとやはり製品の品質を統一しなきゃ。じゃないですか?
田中 品質保証的な部分?
岩村 そうですね。今治タオルや揖保乃糸など、差別化が難しい中でちゃんと地域の産業をブランド化して、世界的に見ても日本の品質としてジャパニーズ・スタンダード的な高品質でいいものを皆さん普通に作られている。
田中 海外の印刷物にはピンホールが目立つようなものがあったり、見当がずれていたり普通にしますから、そういう点では日本の印刷物は品質が高いですよね。
なぜ日本の印刷物の品質は高いのですか?
田中 日本人の特性というか、言われた納期に言われたものを納めれば良いっていう考え方じゃなくて「どうせならより良いものを作りたい」っていう作り手側の日本人の感覚っていうのかな?そういうものがあると思うんですよね。
岩村 課題なのはその付加価値に対して金銭的な部分が二の次になってしまうのが良い国なんですけど日本の産業全体を厳しくしてしまっている。ワールド・スタンダードを目指すならその付加価値に金銭的な部分をちゃんと乗せないといけないと思うんです よね。
日本の印刷物は品質が高い
その中で板橋の付加価値を付けるとしたら何ですか?
岩村 地産地消ですかね。世界的に見てもCO2を排出しない物流が求められていて、お客さまによっては既にCO2排出量の軽減を要求してきています。地域と工場が近いことでCO2を排出しないでお客さまにものが届けられる。それをブランドと言えるかどうかは未知数ですし、色々と考えなきゃいけない課題はあると思うのですが、それが今の僕が考える板橋の付加価値ですかね。
田中 確かに板橋に印刷製本の事業者が集積していることで、同じものを作るでも他所と違ってあちこち遠くへ移動しなくても開発できるのはこれからの時代の付加価値と言えるかもしれないね。
岩村 日本は資源の少ない国なので資源リサイクルは世界的に進んでいて、日本の古紙のリサイクル率は世界的に高く、例えばチリ紙交換など文化的にも昔から資源を無駄にしないという考えが日本には当たり前にある。
田中 江戸時代からエコロジーなんですよね 岩村 そうです。新紙も計画的に植林された樹木のパルプを使っており、樹木を伐採した後も新しい若木を計画的に植林して育てています。樹木自体が育つ過程でCO2を吸収しているわけですから、新紙も資源サイクルとして環境に優しいはずなのに紙を使うことが環境に悪いというイメージが一般にはある。こういったイメージの払拭も板橋として積極的にやる必要があると考えています。
板橋ブランドを作るとしたらどんな姿ですか?
田中 私が思うに品質はもう良くて当たり前みたいな部分もあるので、それ以外の部分も重要だと思っています。やはり各社の経営が安定してないと。板橋ブランドを付けたのに発注したらすぐに潰れちゃったってわけにはいかない。各社ごとにどういう経営方針でやってるかっていう板橋ブランドとしての行動規範みたいなものがあって、お客さんに喜んで頂くために板橋ブランドとしてみんなで共通認識を持って実践してます。みたいなものも品質以上に重要だと思っています。
CO2を排出しない地産地消
岩村 品質以上に実は凄いアドバイスをしてて、そこにキャッシュポイントがあるのに今はサービスでやってる部分が沢山ある。経験と知識がどれだけ製品に対して付加価値を生んでるかっていうのは、もう少しアピールしても良いんじゃないかなって思います。
田中 板橋の場合は集積しているので「これはあそこができる」「これはあそこでできる」って感じで板橋の会社は大体わかってるので、無理難題でも「とりあえず聞いてみますよ」とか、即答できる場合もあるし、そういう対応は他の地域よりも優位性があるんじゃないかなと思います。
板橋ブランドの価値は何だと思いますか?
田中 例えば製本でお客さんから用途と形態を聞いて「こんな仕様にできないか」と言われた時に、想像するにそれは今まで世の中になかったような加工をした商品で、でも「あそこの加工とあそこの製本のあれを合体すればできる」とかっていう新しいやり方やアイディアを考え思いついたりする結構クリエイティブな部分もあるので「専門知識を持ったアドバイザー」として板橋ブランドを利用して貰いたい。
岩村 これは皆さんが既に持っている技術だと思うんですけど、型というか基本となるパターンがあって、その型をお客さんの要望に合わせて崩していく。崩すから型破りな商品ができるっていうのがあるんです。お客さんの要望をデータ通りに印刷するんですけど、お客さんの感性が入っているので結局データ通りではなくて、もう少し明るくとか、暗くとかメリハリとかってなるのでデータを崩して型を破ってアウトプットする。 機械はスキルレスでマニュアル通りに動きますから、そこから何ができるかできないかっていうのは求められる経験と知識が全く違う。型がちゃんとあって、ちゃんと型を崩せる。そこが板橋ブランドとしてお客さんに選ばれる理由であって、僕が目指してる付加価値のキャッシュポイントですね。
板橋の印刷製本の未来についてお聞かせください
田中 ものづくりの楽しさっていうか、そういう部分をもっと前面に押し出したいなっていうのがあって、メモ帳が好きとか、絵本が好きとか、我々自身のそういうPRがちょっと足りてないかなと思う部分があるんですよ。
岩村 そうですね。やってる作業は同じでも出てくる製品が違いますから、それはやっぱり楽しみというか、飽きない仕事の一つですね。
田中 それをもっとPRしないと。実際楽しいじゃん。印刷の仕事だってさ、製本もそうだし。
岩村 板橋が特別というわけじゃないですけど、面白そうな人が一番多い、レベルの高い街にこれからもし続けるし、目指し続けていきたいですね。
田中 そうそう板橋は楽しいぞってね。